ベビーフェイスと甘い嘘

昔、修吾は私に『何があっても守るから、俺の子どもを産んで欲しい』と言った。


あなたが守りたかったのは……私じゃなくて自分の血を引いた子どもだけだったのね。


「自分と確実に血の繋がりのある息子しか……お義母さんが認めてくれないから。そうよね?」


もうこれ以上は話をしても無駄だと思った。


……さらに青ざめた修吾の表情が、何よりの肯定だと思ったから。


私と店長は、お互いに呆然とした表情の二人を残したまま、マンションを後にした。


***

「……いつの間に声を掛けてたの?」


マンションに戻るまでの帰り道、店長に修吾を呼び出した事を聞いてみた。


「断りもせず、勝手な事をして悪かった。……だけど最初っからあの場に旦那を呼ぶって言ってたら、茜さんが旦那にもあの女にも、言いたい事を何も言えなくなるんじゃないかと思ってな」



「茜さん、前に言ってたよな?今まで旦那に言いたい事をちゃんと言わせてもらえなかったって。それもさ、精神的なDVなんだよ。離婚の話し合いが拗れたって話してたけど、ろくに話もできずに……暴力を受けたんじゃないかと思った。それなら、何回も顔を合わせて話し合うのは、茜さんの精神的には負担が大きい」


「あの女にも言いたい事を言えたみたいだし、後は旦那に離婚届を書いてもらえなかったら協議に持ち込む事だってできるだろ。たぶん裁判まではいかないんじゃないか?……親権を争うつもりも無いだろ。あの様子じゃ」
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