ベビーフェイスと甘い嘘

「ただ喧嘩しただけだったら、とっくに元通りになってるはずですけどね……」


初花ちゃんも店長も、何があったのかは頑なに話さない。初花ちゃんなんて、昔に戻ってしまったみたいに酷い顔色をしているのに……


ただ近くにいるだけ。何にもできないし、してあげられないのがもどかしい。


「初ちゃんは真面目だからねぇ。もう少し自分の中で白黒付けてからじゃないと話せない。そう思ってるんだろうなぁ。……話したくなったらそれとなく聞いてやってくれや」


はい、とうなずいてはみたけど、初花ちゃんは私に話をしてくれるのかな……


そんな私の戸惑いを見透かしたように、源さんは優しく微笑んだ。


「茜ちゃんも真面目だな。どうするか迷った時は、そうしたいと……そうしてあげたいと強く思ったほうを選んだほうがいい。誰かが傷つくかもしれないなんて事を思ってると何にもできなくなっちまう」


「あんまり悩みすぎると別嬪さんが台無しになるよ。……ほら、そろそろ戻るんじゃなかったのかい?」



……そうだった。もう戻らないと。



慌ててベンチから立ち上がる。

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