ベビーフェイスと甘い嘘
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コーヒーの香ばしい香りが辺りに漂う。
午前10時。朝のピークを終えて暇になったコンビニの店内。
この人はいつもと変わらない笑顔でやって来て、私が用意するコーヒーを配達の途中に買いに来た。
「アイザワさん、店長さんと喧嘩でもした?なんか凄く顔色も悪いし、ふらふらしてるし」
初花ちゃんは直喜の心配する言葉をスルーして、ふらふらとフライヤーの部屋の方へと行ってしまった。
互いに言い合いをしながらも、何だかんだで仲が良さそうにしていた初花ちゃんと店長だったのに、今は仕事で必要な会話以外の言葉を一切交わしていない。
初花ちゃんは、仕事はなんとかこなしているけど、仕事以外の時間はぼんやりとしていていつ倒れてもおかしくないくらいに顔色が悪い。日に日にやつれていく彼女をもどかしい気持ちで眺めていた。
……だけど、どうして直喜がこんなに初花ちゃんの事を心配しているんだろう。
胸の奥に霧がかかったように、正体不明のもやもやとした感情が広がっていく。
「茜さん?」
直喜は不思議そうに、何も返事をしない私の顔をじっと見つめていた。
その瞳は、今日も深く澄んだ色をしている。
……直喜にとっては、私が必死な思いで『もう会わない』って『私に話しかけないで』って言った事はどうでもいい事なの?
直喜は私の気持ちまで嘘にしてしまうの?
こんな風に……何事も無かったかのように、平気な顔をしてここに来るなんて。