ベビーフェイスと甘い嘘
「もぅ!早く言ってよ!!」
くすくすと笑うナオキを引っ張って、慌てて店外へと出た。
いい歳した女が、若い男を捕まえてイチャイチャしているように見えたかも……
さっきとは違う恥ずかしさで、再び頬が熱くなっていく。
「さ、気を取り直して行きましょうか?」
ナオキはそう言うと、繋いだ手を少し持ち上げてにっこりと笑った。
……不思議な人。
気を許した間柄ではない。
むしろ彼の本名すら分からず、彼の素性を私は何一つ知らない。
知っているのは、彼の声は柔らかで優しげで、綺麗な顔と同じくらいに綺麗な身体をしているって事。その身体は私よりも少しだけ体温が低い。
それくらいだ。
だけど、繋いだその手から伝わる体温はなぜか心地良かった。
彼の気持ちなんて分からない。ましてやお互いの気持ちなんて知る必要も無いのに、なぜかその心地よさに心ごと身体を寄せたくなってしまう。
この前だって、今日だって無理やり呼び出されたはずなのに、そんな感情を抱く私はおかしい。
彼の瞳に魅せられたあの日から……私はずっとおかしいままだ。
戸惑っている気持ちを隠しながら、あの日と同じシルバーのセダンに乗り込むと、「アカネさん、そのワンピース似合ってるね。可愛いな」とさらりと誉められた。
二人っきりになった瞬間に誉めるそのタイミングが憎らしい。決して嫌みな感じではない。人の言うことを素直に受け取れない私でもすっと心に入る絶妙な間だった。
「……ありがと」
呟くように口にしたその言葉にナオキは満足したように微笑んで、車を走らせた。