ベビーフェイスと甘い嘘

「……私は、ウサミナオキは噂通りの人じゃないと思う」


それまで黙って私達の話を聞いていた芽依が口を開いた。


「……どうして?」


「千鶴ちゃんは全部知ってるんだよね?だったら包み隠さずに話すよ。前にさ、本気になった男が途中で止めるのは難しいって話したでしょ?」


「お互いに一晩限りだって割りきった相手だよ?誘いに乗った方も悪いんだし、泣こうが喚こうが、茜ちゃんは何されても文句を言える立場じゃなかった。……それこそ身体だけが目的だったら、なだめすかして丸め込んで、結局うまいことやっちゃうんじゃないの?茜ちゃんみたいな無防備で流されやすい人なんて、簡単でしょ。あの時はメンタルもボロボロだったんだし」


「その後だって何だかんだ理由を付けて誘おうと思えばできるのに、そうしなかった。茜ちゃんは既婚者だって隠して誘いに乗ったんだよ?それって弱味を握ってるのと一緒じゃない。それに、突き放されて会えなくなるのは嫌だって言うなんて……遊び慣れてる人の言葉とは思えないよ」


無防備で流されやすいってのはちょっと納得いかないけど……確かに私が泣いてたって関係なく抱くこともできたし、鬱陶しく感じたのならそのまま私を置いてホテルを出ていくことだってできたんだよね。


でも、直喜はそうしなかった。泣いている理由を何も聞かずに抱き締めてくれた。戸惑ってはいたけど……面倒に感じている様子も無かったと思う。


だから、涙を丸ごと受け止めてもらったあの瞬間に、私は自分自身も受け入れてもらえたような気がして安心したんだ。
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