ベビーフェイスと甘い嘘
「……まぁ、勝手に色々と想像したり噂話をしたくなる気持ちも分かんない訳でもないけどね。だって直喜くん、急にこっちに帰って来たかと思ったら『ウサミ』で働き始めるんだもの。……何が起きたのかなって……普通は思っちゃうじゃない?最初の頃は凄い騒ぎだったしね。私だって『ウサミ』のエプロン付けて働いてる直喜くんを見た時、本当に驚いたもの」
ねー、と言われてうんうんと頷く芽依と同じ反応ができなくて、またもやもやが胸の中に広がっていく。
「……ねぇ、千鶴ちゃん。直喜が急に帰って来たり『ウサミ』で働くのはそんなに驚く事なの?……どうして騒がれるの?」
もやもやは、そのままストレートに疑問として口から溢れ落ちてしまっていた。
「……え?」「……はぁ?」
そんな私を見て、なぜか二人は固まった。
「どうして?って……何で茜ちゃん分かんないの?」
嘘でしょ?と言わんばかりの口調で聞いてきたのは千鶴ちゃんで、「分かんないのって……何が?」と聞き返すと、今度は二人に「えー!」と驚かれた。
「……嘘でしょ、茜ちゃん知らなかったの?……あっ、でもありえるか。茜ちゃん『ウサミ』に行った事無いんだよね。そもそも本にしか興味無い人だし」
「そうそう。テレビも見ないし、音楽も聞かないし。それに、昔っから興味の無いものは殆ど頭の中に残らないんだよね。しっかりしてるようで抜けてるし、人の話も聞いてるようで全然聞いてなくて、肝心なとこほど聞き流しちゃうし」
「……そっか。だから直喜くんは茜ちゃんを……うん、きっとそうね」