ベビーフェイスと甘い嘘
「そこまで知ってて、じゃあ今までこの人って何をしてたのかなーとか、どこにいたのかな、とか気にもしなかったの?好きな人なのに。……ふふっ、茜ちゃんらしい」
はっきり『好きな人』と言われて、その言葉の響きの恥ずかしさだけで頬がカアッと熱くなる。
きっと真っ赤になっている私の顔を見ながら、千鶴ちゃんはニヤリと笑った。
「直喜くんね、彼、プロのピアニストよ」
「…………うそ」
口では『嘘』と言いながらも、そういえば……と思い当たる出来事が頭の中に次々と浮かんでは消えていく。
『still』での素人とは思えない演奏。
演奏前に心配する私を見て、『大丈夫。ああ見えてもプロだから』って言っていたヤスさん。
あの時は、歌っていた九嶋くんの事をプロだって言ってるんだって思ってたけど……
ちゃんと覚えていたら、直喜の事を言ってたんだって後ですぐに分かったはずなのに……ほんと……私って……
「嘘じゃないわよ。中学の頃から何度も大きなコンクールで賞を取っていて、高校の頃にはこの辺じゃ知らない人がいないくらいの有名人だったのよ……それにね、ショパンの……」
「あ、千鶴ちゃんこれ以上説明しなくても大丈夫そう。何か思い当たる事があるような顔してる。それでね、何でもっとよく考えなかったんだろうって、今物凄く反省してるの」
…………図星だけど、何でこの二人には私の考えていることが面白いくらいに筒抜けなんだろう。