ベビーフェイスと甘い嘘
「ふふっ。反省しないでグルグル同じ失敗を繰り返すよりも、反省して前に進んだほうがずっといいじゃない。……まぁ、茜ちゃんが直喜くんのことずっと嘘つきだって思ってたって所だけは、確かに当たってるわよね」
「茜ちゃんは直喜くんの事を、ただ実家のお店で働いてる人だって思ってた。ピアニストでも何でもない、ごくごく普通の人だって。だから直喜くんは隠していたかったんじゃないかな。今、この辺で彼の事を何の詮索もしないで接してくれる人なんて茜ちゃんだけだと思うもの。……きっと、家族だってそうよ」
確かにそうかもしれない。でも、みんなが、家族がそうだったとしても、直喜には……
「……だけど、直喜の事を理解していたのは、奈緒美ちゃんだけでしょう?……私は何も知らない……知らなかっただけなんだから」
結局はそこに行き着いてしまう。どんなに直喜に惹かれても、奈緒美ちゃんには敵わないんじゃないかって。
奈緒美ちゃんはお兄さんを選んだけど、そんなのどうなるかなんて分かんないじゃないって。
修吾と灯さんが元に戻ったように。
カオルさんが初花ちゃんに想いを残しながらも、新たに恋をして結婚したように。
愛してもらえなくても、自分の気持ちに嘘をついてでも、ずっと一生修吾だけを想い続けようと心に固く誓ったはずなのに……
いつの間にか直喜を好きになってしまった私のように。