ベビーフェイスと甘い嘘

***


「ぼくは……すきだよ。ピアノ」



たぶん、そう言った瞬間に俺の人生は決まってしまったのだと思う。


宇佐美直喜。


25歳。


職業は……現在は家事手伝い。


家族は父、母、三つ歳上の兄と、兄の同級生だった兄嫁と……最近生まれた双子の甥っ子達。


実家は『ウサミ』という弁当屋を営んでいる。元々は祖父が始めた店で、父で二代目。お弁当だけでなく店頭ではお惣菜も販売していて、毎日多くのお客さんで賑わっている。


小さい頃、家族でどこかに出掛けた事は無く、遊んでもらった記憶すら殆ど無い。


多忙な両親の代わりに、日中俺と兄の面倒を見てくれたのは祖母だった。


祖父母は店がある実家とは少し離れた所に建てられた離れに住んでいたのだが、祖父は兄の産まれる一年前に亡くなっていた。


祖母は元々『ウサミ』は手伝わず、離れの一部を改装してピアノ教室を営んでいた。

祖母の二人の息子達(俺にとっては父と叔父)はピアノに全く興味が無く、祖父が亡くなった時に教室はたたんでしまったらしい。

叔父の家には女の子がいて、何年か祖母の元でピアノを習っていたけど続かなかった。兄も小学生になるとピアノを嫌がって放課後は学童に行くようになり、祖母の家には寄り付かなくなってしまった。
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