ベビーフェイスと甘い嘘
そのまま車は駅前通りを抜けて、郊外の方へと向かって行った。『Happiness』のある羽積山とは反対方向で、大きなショッピングモールや住宅地なんかがある、ニュータウンへと続く道だ。
「どこに行くの?」
ニュータウンのほうにはあまり馴染みがないのでどこに向かっているのかも分からず、ちょっと不安に思って聞いてみる。
「悪いようにはしませんよ。美味しいもの食べに行きましょ」
せっかくのデートだもん。と愉しげに微笑む横顔を見る。
その瞬間、すれ違う車のライトに照らされていたその横顔が何か考えこんでいるような、とても不安定な表情に見えた。
だけどそれも一瞬の出来事で、また飄々としたいつものつかみどころのない表情に戻っていた。
……気のせいだったのかな?
コンビニに何度か来ていると言っていたけれど、やっぱり私は彼に全く見覚えが無かった。
「ねぇ、あなた一体誰なの?『ナオキ』って呼んでもいいの?名前くらいちゃんと教えてよ」
詮索するつもりはないけど、名前くらいは教えて欲しい。
「この前とは反対ですね」と彼は唇を上げてニヤリと笑うとこんな事を言った。
「名前とか他のことも色々と質問してもいいけど、どうなってもいいんですか?この間のこと、もう忘れちゃった?」