ベビーフェイスと甘い嘘
端から見ると異常かもしれない。だけどその中で暮らしている人は異常だと分からない、そんな生活。
……いつからおかしくなったって?
祖母はいつだって優しかった。今だっておかしくなんかなっていない。
掃除の仕方も、洗濯の仕方だって全部祖母が教えてくれた。ピアノを弾いていなかったら、料理も教えてくれただろう。
これが俺にとっての普通の生活だった。だから、どうしてこうなったのかなんて分からない。
気がつかないうちに、ゆっくりとゆっくりと普通の生活は異常な方へとシフトしていたんだ。
『何で』こうなったって言うなら……
何年も俺と祖母を置き去りにして三人で家族として暮らしていたくせに、『何で』今さら俺だけが責められるんだ?
ーー結局、
祖母と俺は以前と変わらず離れで暮らし、そこに毎日母が様子を見に来る、という生活で落ち着いた(よく奈緒ちゃんもくっついて来たけど)。
祖母は病院を受診して一応病名はついたものの、入院や施設に入るほどの症状では無かったらしい。
ただ、ホームヘルパーの人が来るようになって俺の生活にも余裕が生まれたし、勧められて祖母がデイサービスに通いはじめてからは、表情がずいぶんと明るくなった。