ベビーフェイスと甘い嘘

母や勇喜や奈緒ちゃんまで父を説得しようとしてくれたけど、父は奈緒ちゃんに怒りの矛先を向けてしまった。


『家族でもないのに、口を出すな!』


そう言った父に、奈緒ちゃんは『おじちゃん、私は勇喜くんと結婚します!だから、直喜ちゃんの事も家族だと思ってます!』と間髪いれずに返していた。


売り言葉に買い言葉。次に父が放った言葉が、奈緒ちゃんと勇喜の人生を変えてしまった。


『ちょっと付き合ったくらいで偉そうな事を言うな!ウチの家族として何か言いたいんなら、10年経ってからにしろ!!』


この時二人は18歳。もう4年も付き合っていたし、本当は大学を卒業したら結婚しようと約束をしていたのだと、智尋さんが後になって『二人には内緒だからな』と、こっそり教えてくれた。


一本気で負けず嫌いな奈緒ちゃんは、父のこの何気ない一言を本気にして、本当にそれから10年後に結婚をした。


……本人なんてそんな文句を言った事なんかすっかり忘れて、いい加減早く結婚して落ち着いてくれ、なんて店の常連客に散々愚痴っていたらしいのに。


自分のせいで二人のしあわせまで邪魔をしてしまったのかと思い、この10年は罪悪感でいっぱいだった。


だから二人が結婚してくれて本当に嬉しかったし、心から祝福できるって、そう思ってたのに……
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