ベビーフェイスと甘い嘘
「そんなに構えなくても大丈夫ですよ。この辺って大学の近くだから、学生でも気軽に入れる店が多いんです」
そう言えば、近くに教育大があったはずだ。
いくら気軽に入れるといっても、いつものカットソーにジーンズという格好ではこのお店の雰囲気には合わなかったはずで……『デートだからね』と言われたのは私が恥ずかしい思いをしないように気を遣ってくれたのかな、と思った。
少し重みのある木製の扉を開ける。
カランカラン。
ドアベルの音を聞いて「いらっしゃいませ」と出迎えた女性がナオキを見て「あら!」と驚いた。
「ナオキちゃん!久し振りじゃない!」
長い髪をきっちりとバレッタで留めて、白いシャツに黒のパンツとギャルソンエプロンを身につけた優しい顔立ちのその女性は、私と同じくらいの年齢に見えた。
ナオキは、本名だったのか……
そんな事を考えていると、ナオキと話をしていた彼女と目が合ってしまった。
ナオキと私を交互に見て、そのままフフッと微笑まれる。
……何だか完全に誤解されたような気がする。
「子どもじゃないんだから、ナオキ『ちゃん』はやめてよ」
そう言いながらも、ナオキは嬉しそうに笑っている。
「あと……この人のことも、探るのは禁止ね。二階空いてる?使っていいよね」
にっこりと笑いながらそう言うと、ポンと私の肩に手を置いた。そのまま二階へ続く階段へと促された。