ベビーフェイスと甘い嘘
『探るのは禁止』と話していたからか、しばらくして料理を運んで来たのはナオキで、食事の最後までさっきの女性や他のお店の人が現れることは無かった。
お料理はどれも美味しかった。特にメインで食べた蟹のトマトクリームソースのパスタは、これだけ食べにまたここに来たい!と思ってしまうほどはまってしまう美味しさだった。
強引に今日の約束を取り付けられた事なんてすっかり忘れて、私は上機嫌で『sora』を後にした。
「あぁー、美味しかった!子どもがいると、なかなか温かいものをそのまま食べるってできないんだよね」
ありがとう、とお礼を口にする。
温かい食事を食べる事も、誰に邪魔をされることなくぼんやりと時間を過ごす事も、今の生活の中ではなかなかできないことだったから。
ありがとう、の中にちょっとだけ感謝の気持ちを込めた。
ナオキはそんな私の気持ちを知っているかのように「どういたしまして」なんて言いながら、じっと私の目を見つめてフフッと微笑んだ。
黒髪の中からのぞく瞳は相変わらず深く澄んでいる。彼の瞳に映る私の姿はどう見えているのだろう。
そんな事を考えていると、また手を繋がれた。
「もう少しだけ付き合ってください」
そう言うと車には戻らずに、そのまま大通りの方へと歩いて行った。
時計を見ると、まだ20時前で……デートには、まだまだ続きがありそうだった。