ベビーフェイスと甘い嘘
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「よぉ、直ちゃん。ちょっとこっちに来いや」
駅前商店街への配達の途中で、久しぶりに源さんに呼び止められた。
ペコッとお辞儀だけして通りすぎようとしたのに、
「聞こえなかったのかい?おーい!直ちゃん!!」
と、今度はアーケード中に響くんじゃないかってくらいの大声で呼ばれたので、さすがに無視できなかった。
「…………何か用?」
作り笑いをするのも面倒で、ベンチにドスンと腰を下ろす。
そのまま無意識に店の中に目を移すと、本棚の隙間から何か商品を入れている茜さんの姿が見えた。
……良かった。元気そうだ。
脚立を使っているのに一生懸命に背伸びしてる様子が可愛くて、思わずふっと表情がゆるんでしまっていた。
「直ちゃん。最近コーヒー飲んでないんじゃないのかい?」
そんな俺を見ながら源さんが話掛けてきた。口元は笑っているけど、目は笑っていない。この場所を避けているのだって、たぶんこの人なら気がついているんだろう。
「うん。飲んでないよ。……もうここには来ないって決めたから…………俺が居るだけで、迷惑かけちゃうから」
茜さんが淹れてくれたコーヒーじゃないなら、コーヒーなんてもう飲まなくてもいい。
誰に、とは言わなくても源さんなら分かるはすだ。だから、つい本当の理由を話してしまっていた。
誰にも吐けなかった弱音を、この人なら受け入れてくれるような気がしたから。
源さんはまたニコッと笑うと、子どもを慰めるようにポンポンと俺の頭に手を置いた。