ベビーフェイスと甘い嘘
「最初はな、直ちゃんは初ちゃんの事を見てるのかと思ってたんだよ。……ぴったりだと思ったねぇ。翠ちゃんと喜美枝さんは同じ病気だったからね。解り合える所もあるんじゃないかと思ったし、初ちゃんにもそろそろ前を向いて欲しかったからね」
喜美枝は俺の祖母の名前だ。じゃあ、源さんが言う「ミドリちゃん」は、アイザワさんのおばあさんの名前なのかもしれない。
「……だけど、違ったんだよなぁ」
「いっつもお互い泣きそうな顔をして相手の事を見つめてて……ほんと、見てるこっちが切なくなっちまう」
「……もっと欲しいもんは欲しいって素直に言ってもいいんじゃねぇか……って、余計なお節介かもしれんが、じーさんはそう思う。結果はどうであれ、伝える事が大事なんじゃねぇのか?それを聞いてどうするかは、相手が決めることだ」
『欲しいものは欲しいと素直に言ってもいい』
今まで願いを口にする事さえ躊躇ってきた人生だった。
欲しいものは、たった一つだけ。『家族』だけだった。いつでもそれだけを願って生きてきた。
……だけど、もう一つ欲しいものが。どうしても欲しくて欲しくてたまらない存在ができてしまった。
諦めようとしても、諦めきれない。傷つけてしまうと分かっていても、抱き締めたい。拒絶されても、ただ側にいたい。笑顔なんて見せてくれなくてもいい。ただ、あなたに会いたい。
ーーどうしても、この気持ちだけは分かって欲しい。