ベビーフェイスと甘い嘘
二軒目のお店は『sora』のすぐ近くにあった。
大通りに沿って流れる羽黒川の向こう側。繁華街の中にその店はあった。
『still』
深い海を思わせるようなダークブルーの外観。
スティルって読むのかな……
乏しい知識を総動員しても意味は思い出せなかった。
しかし……さっきからお店のチョイスがいちいちお洒落だ。
何年前まで学生だったのか知らないけど、相当お遊びになっていた学生さんだったんじゃないだろうか。
「……アカネさん、何考えてるか大体分かるよ」
「兄貴の友だちがね、ここのオーナーと知り合いで、時々バイトしてただけだからね」
……遊んでたんじゃなくて働いてたのか。
「今日はね、たぶん素敵な歌が聴けるよ」
俺の勘ね。
そう言うとどうぞ、とエスコートするように店内へと引き入れてくれた。
その手慣れた様子に前言を撤回する。
真面目に働いてたとしても……合間に絶対遊んでる、この人。
薄暗い店内もダークブルーに彩られていて、中に足を踏み入れていくにつれて、まるで海の中に潜っていくような感覚になった。
店内は私と同年代か、それより年上くらいのお客さんでほどよく混み合っていた。
右手にバーカウンター、正面にステージがあってピアノの生演奏が心地よく響いてくる。
生演奏を聞きながら、食事やお酒を楽しむことができるお店のようだった。