ベビーフェイスと甘い嘘

『どうするか迷った時は、そうしたいと……そうしてあげたいと強く思ったほうを選んだほうがいい』


源さんはそう言ってくれたけど、本当は初花ちゃんの気持ちが落ち着くまで待ったほうがいいのかとも思った。


でも、タイミングばっかり図っていても、かえって身動きが取れなくなってしまう。



久しぶりに初花ちゃんの花が咲いたような笑顔を見て、やっぱり連れてきて良かったんだと、ようやく心から安心する事ができた。




***


12月も半ばになり、羽浦駅や駅前商店街のアーケードは、クリスマスのイルミネーションで華やかに彩られていた。


雪がちらつく日も増えて、自動ドアから一歩外へと足を踏み出した瞬間や、喫煙スペースの灰皿を取り替える時、水の冷たさに思わず身を縮めてしまう瞬間に、雪が積もらないはずのアーケードの中にも確実に冬の気配が訪れているのを感じる。



初花ちゃんと店長の関係は平行線のままだ。



表面上は二人ともいつものように振る舞うようになったけれど、以前のようにじゃれあっているような言い争いをする事はもう無くなっていた。



単純に『好き』『嫌い』だけで二人がこんな風に会話もままならない関係になってしまった訳じゃなくて、それぞれ何か事情があるんじゃないのかっていうのも、その事情までは分からなくても何となく察する事はできる。
< 530 / 620 >

この作品をシェア

pagetop