ベビーフェイスと甘い嘘
「すいませーん、コーヒーお願いします!」
声を掛けられて、はっとしてうつ向いていた顔を上げた。
「……大丈夫?何か具合でも悪い?カシワヤさんが元気無いなんて珍しいね」
「……えぇ、まぁ……ちょっと寝不足で……」
「ふーん……昨日はデート?カレシと朝になるまで盛り上がっちゃったりしたの~?」
……うっ。
このお客さんは、いつもこんな感じで初花ちゃんや唯ちゃんにも声を掛けている。
見た目は爽やかで好青年って感じなのに。
いつもなら冗談もからかいもニヤニヤ笑いも笑顔を張り付けて全部かわせるのに、今日はなんだかうまく笑顔が出て来ない。
「……ありがとうございます」
ぎこちない笑顔でカップを渡すと、そのまま逃げるようにフライヤーの部屋へと駆け込んだ。
視界の端に驚いた顔をしている店長が見えたけど、何か声を掛ける余裕なんて無かった。
「……気持ち悪い」
ムカムカとした不快な気持ちは吐き気を誘う。その場にしゃがみこんで、込み上げてくるものを何とか押さえこんだ。