ベビーフェイスと甘い嘘

「……大丈夫か?」


店長の心配そうな声に、頭だけ動かして頷いてみせるけど、まだ顔を上げる事ができない。


「気分でも悪いのか?……吐き気は?」


こっちの部屋に逃げ込んだことで、吐き気はだいぶ治まっていた。問いかけに首を横に振ると、スタスタ……と足音が遠ざかって、またスタスタと戻る足音が聞こえた。


頬に何か冷たいものが当てられる。


「……ひゃっ」


思わず顔を上げると、目の前に桃色の花柄のデザインのペットボトルが見えた。ノンカフェインのフレーバーティーだ。


「……すみません。お金……」


「そんな事、気にしないで休んでろ。……気持ちが悪いなら、無理して飲まなくてもいいけどな。今の時間なら暫く一人でも大丈夫だから、落ち着いたら戻って来ればいい」


「……何も考えないでペラペラ喋ってるヤツの軽い言葉なんて、まともに受け止めるなよ」


そう言って、店長は店の方へと戻って行った。


……気がつかれた?


お客さんの態度に不快感を覚えたのも、どうしてそんな気持ちになったのかも分かって話しているような口調に動揺しながらも、それでも気遣ってくれた気持ちがありがたくて、キャップを開けて少しだけ中身を口に含んでみた。


爽やかな味が心地いい。


私がいつも飲んでいるのを知っていて、心が落ち込んでいる時にこれを差し出してくれたのも嬉しかった。

< 533 / 620 >

この作品をシェア

pagetop