ベビーフェイスと甘い嘘
「……どうして今なの?」


……何か大きなきっかけがあった?


だって、奈緒美ちゃんに私が責められた時は、私に視線すら合わせようとしなかった。


直喜に『愛してない』って私が嘘をついた時だって……追いかけても来なかったのに。



どうして、あの時は伝えられなかったって言って……


今、急に好きだなんて言うの?



「……俺ね、小さい頃から欲しいものや憧れているものに手を伸ばす前に、諦めるクセが付いちゃってたんだ」



直喜は、私の問いかけには答えなかった。



だけど心が苦しくなるくらい、瞳は変わらず真摯な光を宿したままで、じっと私だけを見つめている。



「……茜さんにとっていちばん大切な物は、家族だよね?」



「最初の夜に見せた涙は……家族を裏切った罪悪感で、悲しみに押し潰されそうになったからだって思ってた」



「だから、ずっと後悔してたし、不安だったんだ。あんな形で出会って……どんなに好きになっても、気持ちを伝えても、始まりが始まりだったから、俺の気持ちは伝わらないし……信じてもらえないんじゃないかって」


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