ベビーフェイスと甘い嘘
「……もう15分くらいなら大丈夫。でも、そんなにゆっくりはしてられないから、お構い無く」


最悪直喜が戻らなければ、歩いて帰る事も考えて短めに時間を伝える。


それに、例えここに出入りしているのは奈緒美ちゃんだけじゃなくても、二人の『生活』が感じられる場所に、正直長居したくは無かった。


「はぁー。めちゃくちゃ警戒してますね。……まぁ、仕方ないか」


そう独り言を呟くと「どうぞ」と、私に緑茶を差し出した。そして、自分はローテーブルを挟んだ向かい側に置かれていた座椅子にペタンと座る。


その動作も自然で、言い様の無いモヤモヤとした気持ちに心が包まれていく。


「茜さん、顔色悪いから。これ飲んでちょっとだけ温まったほうがいいですよ。……これ以上の『お構い』はしませんから」


さっき直喜に手を取られて、あんなに熱くなっていた頬も指先もすっかり冷えきってしまっていた。


「…………いただきます」



温かいお茶を身体に入れると、ざわついていた心が少しだけ落ち着いてきた。



「ここの事、直喜ちゃんからは何て聞いてます?」



「宇佐美家の離れだって……あと、ここには直喜……くんしか住んでないって」


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