ベビーフェイスと甘い嘘
ピッとリビングの床を指差したから、『ここ』はたぶんここの建物の事なんだと思って、さっき聞いた事をそのまま答えた。



「ここね、元々直喜ちゃんのおばあちゃんの為に建てられた家だったんですって。おばあちゃんはここでピアノ教室をやってたんです。おじいちゃんは勇喜が生まれる前に亡くなってて、私達が小学校に入る頃にはピアノ教室はやめちゃってましたけど」


「直喜ちゃんは小学校……二年生になったくらいかな?おばあちゃんと二人でここで暮らし始めて、ずっとピアノのレッスンを受けてたんです。友達も作れないし、どこにも遊びにも行けない自由が無い状態で」


「おばあちゃん、病気だったんです。たぶん、最初は病気でも何でも無かったんでしょうけど、だんだん色んな事を忘れるようになって……最後はご飯を食べる事も忘れちゃったんでしょうね」


「私も勇喜も中学生になってたから、直喜ちゃんの見た目が変わるくらい痩せ細るまで気がついてあげられなかった。……おばあちゃん、その頃にはもう、直喜ちゃん以外の家族の顔が分からなくなってたんです」



「直喜ちゃんは、おばあちゃん以外の家族を家族だって思えない状態で育ってきたんです。……知ってました?」



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