ベビーフェイスと甘い嘘

「……どうして、私に教えてくれたの?」



奈緒美ちゃんの意図が分からない。


マシンガントークはいつも通りだけど、コンビニで叩かれたあの日に感じた牽制するような憎しみを込めた視線は今の彼女からは全く感じられず、戸惑う気持ちばかりが大きくなっていく。



「茜さんには、知っていて欲しかったから」



「ピアノ以外何にも執着した事の無かった直喜ちゃんが、初めて手を伸ばした女(ひと)だから」



「……聞こえてたの?」




『直喜ちゃんは、私が認める人じゃないと任せられない。不倫なんて絶対許さない!』



と、憎しみを込めた視線を向けられたあの日を思い出す。



「あんな大声で話してたら、嫌でも耳に入りますよ」



聞こえてたのならば、どうして奈緒美ちゃんはあの時のように私に対して怒りを向けて来ないのだろう。



手を繋いだままで直喜の話を聞いていたから、やっぱり不倫をしていたのかと思われても仕方のない状況だったのに。



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