ベビーフェイスと甘い嘘

「私から見たら充分お嬢さんですけどね。恥ずかしいなら、お名前で呼びますよ。ナオキの大切な人ですからね」

……機嫌を損ねたらアイツに怒られます。

シェイカーを振りながら丁寧に話すヤスさんは、年齢不詳だ。

私と同じくらいの歳に見えなくもないけど、バーテンダーのその格好からは年齢をうかがい知ることはできない。


「……どうかされました?」

「いっ、いいえ。何でもないですっ」

じろじろ見すぎていたらしい。

慌てて視線を下げると、目の前のグラスに鮮やかなピンクの液体が注がれた。

ありがとうございますと受け取って、一口飲むと爽やかな味がした。

「『バージンブリーズ』です。可愛らしいあなたにぴったりのカクテルですよ」

この人といい、ナオキといい、まるで「こんばんは」と挨拶でもするように気軽に可愛いと口にするのね……


嘘だと分かっていても、慣れていないから反応できずに困ってしまう。


「交渉成立したみたいですよ?」


ヤスさんが困り顔の私に声を掛けると、ステージのほうを指さした。


どんな話し合いがあったのか……


ニコニコしながらナオキはピアノに座り、チアキさんはそんなナオキを冷ややかな目で眺めていた。他人事ながら、何だかはらはらしてしまう。


「そんなに心配しなくても、大丈夫ですよ。ああ見えてもプロだから……まぁ、分かりますよね」
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