ベビーフェイスと甘い嘘
じとっと睨みながら話すと、奈緒美ちゃんは「へっ?」と驚き目を見開いた後で、アハハッと声を立てて笑った。


「あー、もう、茜さんってば……何か、色々と予想外でした」


手を口に当てながら、しばらく笑いが収まらないといった感じでクックッと笑った後、キュッと私の上着の袖を引っ張って「スマホ、出して下さい」と言ってきた。



……袖を引っ張るのも、奈緒美ちゃんの癖だったのね。



直喜だけにじゃなかったんだと……そう思って安堵してしまった私は、やっぱりさっきの奈緒美ちゃんの仕草や奈緒美ちゃんの存在自体に嫉妬していたんだと気づかされた。



そんな事を考えて、ぼやっとしてしまったらしい。


またキュッと袖を引っ張られて、何で?なんて考える間もなく、慌ててスマホを差し出した。



奈緒美ちゃんは、「……うわっ、ロックもかけてないんですか?」とか、「お子さん、茜さんに似てますねー」とか、「茜さんって、友達少なそうですね」なんて、好き勝手な事をブツブツと呟きながらLINEを立ち上げて、「はい。私のID登録しときましたから」と言って、再びはい、とスマホを返された。



「……茜さん。こうやって言われるまま大切なものを差し出しちゃったらダメですよ。守るものができたらね、母親は闘わなくちゃいけないんです」


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