ベビーフェイスと甘い嘘
若い子が好むような最近の曲にあまり付いていけなくなってきた私でも、この曲なら知っている。
ヒットしたし、最近またCMで流れているし、リリースされた時はコンビニの有線でも繰り返し聞いていた。
『crown』というバンドの曲だ。
ずっと一緒にいた二人。好きだと気がついて、お互いの気持ちは同じはずだと分かっているのに確かめるのが恐くて近づけない。
確かそんな歌だったはずだ。
うろ覚えの歌詞をチアキさんの歌声がなぞる。
さっきの曲とは違って、切なげに歌うその歌声に驚いた。
恋に堕ちて……甘やかな気持ちに浸るのではなくて、そこでふと気がついたのは孤独な自分。
どうしてこんなに悲しいの?切ないの?
まるで問いかけるように歌っている。
……まるで泣いているみたい。
その悲しい歌声は、私の胸の深い部分まで届き、心を揺らした。
恋に堕ちて孤独を知るなんて……
まるで私みたいだ。
素敵な歌が聴けるよ、なんて言ってたくせに……ナオキの嘘つき。
こんな風に突然自分の感情と向き合う歌を聴かされるなんて……
ポタッ。
膝の上でいつの間にか固く握りしめていた両手に雫が落ちる。その感触で自分が涙を流していたことに気がついた。
お客さんはみんなステージのほうを向いている。
だから私が泣いていても誰も気がつかない。
自分の不確かな感情と向き合うのが恐いくせに、私はこの涙を誰かに気がついて欲しいと思っている。
そう思いながら、ずっと心の中で涙を流している。