ベビーフェイスと甘い嘘
これ以上、この孤独な心に一人で立ち向かうのは辛かった。
……どうしてナオキは、こんなに易々と私の心に触れてくるんだろう。
複雑に縺れて絡み合って、自分でもどうしようもなくなって身動きができなくなっている、この感情に。
すっ、とハンカチが差し出される。
見上げると、ヤスさんがどうぞと言っていた。
ハンカチなら私も持っているけど……
その優しさと気づかいが嬉しくて、少しだけ甘えることにした。
演奏が終わった。拍手と歓声を受けながらにこやかにナオキは礼をした。
チアキさんの肩にポンと軽く手を置いて何か話しかけながら、ステージに向かって歩いて来た何人かのお客様を手で制してまた頭を下げると、ナオキはカウンターの方へと戻って来た。
「ナオキ……お前なぁ……」
ヤスさんがちょっと睨みながら話しかけてくる。
「大丈夫だって。歌えるってことは、吹っ切れてるってことじゃないの?」
「……それだけ意識してる、ってこともあるんだぞ」
ナオキとヤスさんが話している内容は分からなかったけど、『crown』の曲がチアキさんにはタブーだったのかな、ということは何となく分かった。
「それよりも……吹っ切れてないのは、こっちでしょ」
ナオキが私の頭に手を置いて、優しく撫でた。
『また泣かせちゃったね』
じっと見つめるその目はそう言っていた。