ベビーフェイスと甘い嘘
「大体さ……ホテル代だっていらないって言ったのに、アカネさん受け取ってくれなかったでしょ。なのに今日も割り勘しようとするなんて、ありえない」
そう言われて、今日は純粋なデートでは無かったのだと思い出した。
あの日の明け方、私はホテルを出る前にベッドサイドにお金を置いてから出た。『pastel』で会った時にそのまま返されそうになったので頑として受け取らなかったのだ。
だから彼はデートを提案して、あの日のホテル代を埋め合わせようとしたのだろう。
それでナオキの気が済むなら、それで良かった。
もう貸し借りは無いはずだし、こうして呼ばれる理由も無くなるはずだから。
「本当に送らなくていい?もう人通りも少ないし、誰にも会わないでしょ」
ナオキが家の近くまで送るよと言ったのを断って車を停めてもらったのは、駅前通りに程近いスーパーの駐車場だった。
ここなら家からもそんなに遠くないし、広いし、ちょっと停まって話をしていても目に付きにくいはずだ。
「今日は楽しんでもらえました?」
ナオキが微笑みながら聞いてくる。
「うん。とっても楽しかった」
私は、そう素直に口にした。
そのまま『じゃあね』と言って帰る流れなのに、なぜか車を降りた途端に手を取られて、こうしてお別れの挨拶を口にしながらも私達の手は繋がれたままだ。
「ねぇナオキ……手、そろそろ離して」
「どうして?」
「『どうして?』って……もう帰らなくちゃ」
ここは駅前通りに近い。いくら暗い駐車場でも、こんな風に話していたら誰に見られるか分からない。