ベビーフェイスと甘い嘘
焦る私にナオキは笑いながら「もう泣かないでね」と言ってきた。
「……そんなにいつも泣いてない」
「さっきまで泣いてたくせに。嘘つきだなぁ」
バカにされたような口調に苛立つ。
あなたに何が分かるの?そう言おうとした瞬間ぐいっと繋いだ手を引き寄せられた。
何?と思う暇もなく、私は彼の腕の中にすっぽりと収まるように抱き締められていた。
「ちょっ、……ちょっと」
焦って慌てて顔を上げると、じっと見下ろすナオキと目が合った。
視線が交わったその瞬間、また彼の深い瞳の中に囚われてしまった。
目を反らすことができない。
もがけばもがくほど深みに嵌まっていく沼のように、その漆黒の瞳は私を逃がすまいと執拗に追いかけて来る。
彼の瞳の中に私の姿が映りこんでいる。
困っているような、恥ずかしがっているような、なんだか泣き出しそうな顔をしていた。
……そっか、だからもう泣かないでって言われたんだ。
ナオキに言われるまで自分がこんな表情をしているなんて気がつかなかった。
そのうち瞳の中に映る私の姿がちょっとだけ大きくなった。
彼の顔がぐっと近づいて来たからだと気がつく。
……キスされる。
そう思った瞬間、彼のその形の良い唇は私の視線から外れていき、私の唇ではなく頬にそっと着地していた。