ベビーフェイスと甘い嘘
「翔……まだ馴染めないの?」
お風呂から上がり、リビングに戻ると芽依にそう声をかけられた。
「なかなかね……難しいみたい」
翔の通う幼稚園の話題に私は顔を曇らせた。
この辺に住んでいる子ども達なら駅前に程近い幼稚園に通うのだけど、義母は夫が通っていた私立高校の附属幼稚園に通うことを強引に勧め、夫は反対することもなく受け入れた。
受け入れたくせに、受験は一切人任せにして。
まさかこの勢いで小、中、高校まで決められてしまうことは無いとは思うけど……
それでも近所の仲の良い子や、従兄弟の亜依と同じ幼稚園に通えないと知った時の翔のショックは大きかった。
一年以上経った今でも、連休明けや長い休みの後には必ず体調を崩してしまう。
小さな身体で理不尽と戦っているんだろうか。
そう考えると胸が痛む。
眠っている翔の額をそっと撫でる。
自分のことで泣いている暇なんてない。
私は母親で、家族のことを一番に考えないといけない。
これからは、ナオキの誘いには乗らないほうがいい。
自分が自分でいられなくなって動揺してしまう。こんな気持ちは……
これ以上深く知らないほうがいい。