ベビーフェイスと甘い嘘
そのまま直喜はコーヒーを片手に、「じゃあね」とにこやかに笑って帰って行った。
「やっぱり、カッコいいなー」
初花ちゃんの目がキラキラしている。
彼女はイケメンが大好きなのだ。
……確かに直喜はかっこいい。
涼しげで深い色の切れ長な目は勿論、鼻筋も通っているし、薄い唇は、笑うと綺麗な弧を描く。
「初花ちゃん、ウサミさんの事知ってたけど……彼、ここによく来てたっけ?」
さらっと探ってみる。
「茜さんはタイプじゃないと覚えないんですか?!」
逆に驚かれてしまったので、あはは……と笑ってごまかした。
「この前の結婚式の時に話をしたのよ。私の事知ってて、コンビニのお客さんだって言ってたけど……私は記憶になくて」
はしょって話すことは、ギリギリ嘘じゃないよね。
お店の中でまたこうして直喜に話しかけられて、不自然に知り合いだとばれてしまう前に私は予防線を張ることにした。
「えー、この前の『Happiness』の結婚式『ウサミ』さんのだったんですか?茜さんのお友達、ウサミ兄と結婚したんですね!」
私のかいつまんだ結婚式の話を聞いて、いーなー、羨ましい!と大声で話す初花ちゃん。
しかし、直喜と……お兄さんの勇喜(ゆうき)さん(初花ちゃんから聞いてそんな名前だったな、って思い出したけど……)が、この辺ではちょっとした有名人だってことを、私は初めて知った。
あらためて、この前の夜に駅前でなんて待ち合わせなくて良かったわーと思う。
二人は、学生時代から時々『ウサミ』のお店を手伝っていたらしい。
……何となく繁盛するのも分かるなぁ。お弁当屋さんの中に何故かホストがいる……みたいなもんでしょ。