ベビーフェイスと甘い嘘
アイラインは、ちゃんと引きましょう
「ねぇ……もう一回シテくれない?」
「これならイイでしょ?一人でやってみてよ」
「んー、だって……うまくできないんだもん」
「甘えないの」
「んっ、やっぱ、だめ」
私の言葉を聞いて、目の前のオトコは深い溜息をついた。
「……だからさぁ、何でそこでヨレちゃうかなー。睫毛の根本を埋めるように、動かす!」
「だ、だって……瞼引っ張ったらよく見えないし。うまく引けないよ!」
「引っ張ってるほうの目で見ても見えるワケないでしょ」
呆れたようにそう言うとちょっと休憩ね、と言って九嶋くんはキッチンに立った。
その後ろ姿を見て私の口からも溜息が零れる。
残されたのは目元がガタガタと不格好になっている、そんな姿の私。
「はい、どうぞ」
目の前のテーブルにコーヒーが置かれた。
「はぁ……どうも」
ここはコンビニから程近い、九嶋くんのアパート。
私はここで彼のキャンバスになるはずだったのだけど……なぜか今アイラインの講習を受けている。
……コーヒーか。カフェインあんまり摂りたくないんだけどなぁ……。
そう思いながらも、わざわざ入れてもらったものを断るのも悪いので、仕方なく口に運ぶ。
何で私はここでこんな事をしているんだろう。
さっぱり分からない。
「ねーさん、不器用すぎ」
「うっ……」
先生のヒトコトが胸に刺さる。
実は私は不器用で、細かい作業が苦手なのだ。