ベビーフェイスと甘い嘘
「ねーさんのメークって顔に合ってないんだよね」
前から気になってたんだよ。九嶋くんの部屋に入るなり、そんな事を言われた。
「あんまり興味がないんでしょ?誰かに基本だけ教わって、ずーっとそのまんま、って感じ」
図星過ぎて、思わず苦笑いが零れた。
昔の私は野暮ったい黒ぶちメガネ、伸ばしっぱなしの髪型に、スカートなんてめったに履かない。そんな地味な女だった。
趣味は読書で本の虫。どうしても司書になりたくて転職を決意した。念願叶って市立図書館の司書になれたのは25歳の時だった。
就職してすぐ、お洒落に全く興味の無かった私に「女に生まれたんだから、もっと着飾りなさい!」と言って服をくれたり、一緒に買い物をしたりと外の世界に連れ出してくれたのは裕子さんで、メークの仕方を教えてくれたのは千鶴ちゃんだった。
……まぁ、九嶋くんの指摘通り、はっきりした顔立ちで美人顔の千鶴ちゃんから教えてもらったメークは、地味な私の顔には合って無かったようだけど。
野暮ったかった眼鏡を外してコンタクトを入れた。生まれてはじめて髪を染め、パーマをかけた。
二人は変わった私を可愛いと誉めてくれたけど、私は自分の容姿に一つも自信が持てなかった。
自分の子どもっぽい顔が嫌いだった。ただ年を重ねていくだけで、大人になりきれていないような気がしていたから。
二人のように美人で凛とした大人になりたくて、あの頃の私はいつも二人の姉の背中を追いかけていた。