ベビーフェイスと甘い嘘

そんな容姿の変化や仕事にも慣れて、毎日が楽しく充実していた3年目の春、私は修吾と出会った。

木曜日の午後に必ず図書館に来る人。
営業の途中にでも寄っているのだろうか?スーツをきっちりと着こなし、いつも同じ黒のビジネスバッグを持って真剣に本を選んでいる姿が印象的だった。


毎週欠かさず立ち寄るなんて、本が好きな人なんだな。最初はそれくらいの印象しか持っていなかったのだけど。


「手伝いましょうか?」


背の低い私が、脚立を使ってもギリギリ届かない上の棚に本を戻している。そんな様子を見かねたのか、修吾が私に声をかけてくれた。

すみません、と恐縮する私にあっという間に本を戻してくれた彼は、

「実はずっとあなたとお話したいと思ってたんですよね」

だからきっかけができて良かったです、と言って微笑んだ。私のネームプレートを見ながら修吾は、


「お名前は『アカネ』さんでいいんですか?」と聞いてきた。


「はい。新川 茜(シンカワ アカネ)です」

「いい名前ですね」


それから顔を合わせる度に何となく会話をするようになって、そのうちに食事に誘われて、休日に会うようになって……あっという間に私は彼に夢中になった。


付き合って、と言われた時は舞い上がるほど嬉しかった。
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