ベビーフェイスと甘い嘘
ほどなくして私は彼の子どもを妊娠した。
付き合ってから一年も経っていなかった。
式を挙げることもなく、翔が産まれたら日々の生活に追われて……
気がついたら、こんな歳になっていた。
***
「ねーさんってさ、男に慣れてないよね」
九嶋くんがコーヒー片手にじっと私の顔を見ながら聞いてきた。
「……何でそんな事が分かるのよ」
さっきまでアイラインを引いていたのに、どうしてそんな話になるんだか。
だってさー、と九嶋くんは話を続ける。
「警戒心ゼロ。今だって何も考えないで俺の部屋にいるでしょ?一人暮らしの男の部屋に入っていきなり襲われる、とかそんな考えもないわけ?」
「何言ってるの。メークの約束を持ちかけたのは九嶋くんじゃない。同僚だし、信用してるからでしょ」
「だからさ、メークしてあげる、ってのも口実だって考えもしなかったの?ってこと。男、嘗めすぎ。……だから直喜なんかに振り回されちゃうんだよ」
そう言われて、むっとする。
「九嶋くんには『オトコ』を感じませんから」
反論の言葉を吐いても、
「ふーん。じゃあ……直喜には感じてんの?」
ニヤリとしながら聞き返されてしまった。