ベビーフェイスと甘い嘘

ほどなくして私は彼の子どもを妊娠した。

付き合ってから一年も経っていなかった。

式を挙げることもなく、翔が産まれたら日々の生活に追われて……

気がついたら、こんな歳になっていた。



***


「ねーさんってさ、男に慣れてないよね」

九嶋くんがコーヒー片手にじっと私の顔を見ながら聞いてきた。

「……何でそんな事が分かるのよ」

さっきまでアイラインを引いていたのに、どうしてそんな話になるんだか。


だってさー、と九嶋くんは話を続ける。

「警戒心ゼロ。今だって何も考えないで俺の部屋にいるでしょ?一人暮らしの男の部屋に入っていきなり襲われる、とかそんな考えもないわけ?」


「何言ってるの。メークの約束を持ちかけたのは九嶋くんじゃない。同僚だし、信用してるからでしょ」


「だからさ、メークしてあげる、ってのも口実だって考えもしなかったの?ってこと。男、嘗めすぎ。……だから直喜なんかに振り回されちゃうんだよ」


そう言われて、むっとする。


「九嶋くんには『オトコ』を感じませんから」


反論の言葉を吐いても、

「ふーん。じゃあ……直喜には感じてんの?」

ニヤリとしながら聞き返されてしまった。
< 89 / 620 >

この作品をシェア

pagetop