ベビーフェイスと甘い嘘

今までは、そう思ったからと言って自分から近づくのも何だか違う気がしていた。

行動に移せなかったのは単にきっかけがなかったからだったけど、こうして思わぬ形できっかけが訪れたのは……悔しいけど直喜のおかげだった。

本人がそこまで考えてくれたのかどうかは分からない。けど、九嶋くんにいろいろ話を聞いてもらいなよと言った彼はとても優しい目をしていた。


仲良くなれた?と聞かれてうなずいた時は、嬉しそうな顔をしてくれた。


本当に直喜は不思議な人だ。


九嶋くんにわざと引き合わせたと分かった時には何てことしてくれるのよ!と、怒っていたのに……笑顔で返されると調子が狂ってしまう。


一緒にいると、今まで塗り固めてきた嘘の壁をひとつひとつ剥がされるような、不思議な感覚にとらわれていく。


私は嘘をつき続けてただ単純な人生を守ろうとしたいのか……それとも素直に生きたいと心の底では望んでいるのか。


答えはすぐそこにあるのに、私の感情は複雑でなかなか姿を現してくれない。


表に出るのは涙ばかりだ。


たぶん……私はまだその答えを知りたくないのだと思う。
< 92 / 620 >

この作品をシェア

pagetop