ベビーフェイスと甘い嘘
「ごめんなさい。お店の中じゃまずかったですね」
「中でも外でもまずいわよ!帰れ!!」
にやにやと笑うふざけた態度の男に、思わず声を荒くしてしまう。
ぐいっと出口に向かって背中を押そうとすると、「ちょっと待ってね」と軽くかわされた。
そのままレジのほうまで戻ると、置いてあった短冊の束からすっと藍色の短冊を引き抜いた。
「これ、あの笹に飾ってくれるんでしょ?俺にも書かせて」
そう言って店先に飾ってある笹を指差した。
「……どうぞ。」
「書いたらまた来ますからね」
「中まで来なくていい。勝手に飾って」
「何て書くか気になりませ」
「ならない!」
被せぎみに否定すると、直喜は笑いながら、「柏谷 茜が宇佐美 直喜に『興味関心』を持ってくれますように、って書こうかなー。お言葉通りに勝手に飾りに来ますから、チェックしといてくださいね」と言ってきた。
「ちょっと!!」
全く冗談を言っているように聞こえないのが怖い。
慌てた私に「じゃあ、またね」と言って、直喜はやっと入り口へと向かって行った。
「いつもの仮面みたいな営業スマイルより、今の怒った顔の方が何倍も可愛いですよ」と、余計な言葉を残しながら彼は去っていった。