したくてするのは恋じゃない
そう、珍しい。私が恋愛物なんて。
先週の日曜、平積みされてるのを見たら…何だかたまには読んで見るかって、思わず手に取っていたのだ。
なんでだろう?この心境の変化…て思った。
そういう気分じゃないからって、ずっと読む気がしなくて読んで来なかった物だ。
ところがどうだ。
流石だ。プロだ。…当たり前だ。
読んで見ると情景が手に取るように見えてくる。
年齢設定は少し低目だったが、あるある、なんて、共感して、挙げ句、引き込まれ…作者の思うツボだ。
「お〜い、絵里子ー?妄想か?ぶっ飛んでるぞ〜」
「と、とにかく、もういいから。…静かにして」
はて?左手が握られたままテーブルの上にある。
「お待たせしました」
「うっわっ」
いつの間にか、猫のようにしなやかなマスターが、剣吾の後ろに居た。
珈琲とパスタを置く。私達の手の上に……置こうとしていた。
「おっ、と」
剣吾が手を解く。
私も手を引っ込める。
自然に離す形になった。
置く場所を私の前にした。
「あ、美味しそう!」
おまけかな?…温野菜のサラダもある。
剣吾は珈琲を注文していたようだ。
「何このパスタ、美味そう。絵里子のか?」
「…剣吾のじゃなかったら私のに決まってるじゃない」
「俺にも少しくれ」
「駄目です…」
ゾクッとするほど素敵な声で、静かにはっきり否定する。
「えっ」
マスター…。
「これは絵里子ちゃんの為の特別メニュー。
だから駄目です」
「いいかどうかは絵里子が決めればいいだろ、な?」
ここは空気を読めば…。
「…駄目」
だな。
「チッ、けち」
「けちではありません。
晩御飯に丁度良い分量にしてあるんです。君が食べたら、また小腹が空くじゃないですか。
そのせいで、夜中になんか摘む事になって、太らせる事なんか出来ません」
なんだかマスター、凄く無理矢理こじつけてる感じ。
理由づけが苦しいなー。それこそ屁理屈ー。