したくてするのは恋じゃない


「あーっと、もうこんな時間か。俺そろそろ行くわ。またな」

残りの珈琲をくっと飲み、急ぎ足で出入口に向かうと、会計を済ませ、小走りで出て行った。
結局、パスタを食べる事はしなかった。


嵐が去った後のようだった。

一体どのくらい居たのか。10分?長くても15分くらいかな。
珈琲飲みに来ただけなのかな?
あ、またな、なんて、また言ってた。

そう言えば、この前、またなって言って…。
今日、また会った。会えた?どっちだ?…う〜ん。

「…子、ちゃん…絵里子ちゃ〜ん」

「あ、はいっ、はい」

「本日二度目の“ぶっ飛び"ですか?」

「…マスター」

「パスタが冷め切ってしまいます。
折角、カレから僕が“死守"したのですから。
もう、適温では?さ、食べてください」

死守?剣吾との話、聞かれてたかな。

「そうですね。剣吾にはパスタ一本だって、他のモノだってあげません!」

マスターは、はっと息を呑んで少し表情を緩めた。

「はいはい、食べてください。
急かすつもりはないですが、急がないとまた僕と二人っきりになってしまいますよ」

もう、こんな時間になってる。あと30分で閉店時間。

「僕は大歓迎ですよ。送る理由が出来ますからね」

確信した事がある。マスターはダンディーな狼だ。

解らない事がある。僕と俺を使い分ける事。

サラダまでペロリと平らげ、一人で店を後にした。

< 14 / 64 >

この作品をシェア

pagetop