したくてするのは恋じゃない
どうしたんだろう…。
あれからマスターは、ごゆっくりと言って、すぐ居なくなってしまった。
当たり前と言えば当たり前なんだけど。
お皿が空いた頃には現れ、食器を下げると、珈琲を持って来てくれた。
そういえば、最近、話し掛けられる事が多くなったような…。
以前も全く話さなかった訳では無かったけど、こんな親密?な会話、長く通ってるのに今までしなかったような…。
「今日は何時くらいまでの予定?
帰ったら予定あるの?」
長く通って居るが、帰る時間を具体的に聞かれた事は無かったような。
「ごめんね、経営者としてというか、店員として、接客態度がなってないよね、お客様を詮索するなんて」
「いえいえ。そんな…大袈裟な。詮索されてるなんて思ってませんから。
嫌なら会話しません」
「…今更だけど、詮索以上の事もしちゃったし…」
危うく、また噴き出すところだった。
「あれは…、あれは事故ではありません」
「ん?」
「あれは事件です。私に取って、あれは大事件だったんです」
はっ、私は何をペラペラと…。
「どういう事だったのか…よく解らないから…」
消え入りそうな声になる。
「予定が無ければ、店が終わってから会ってくれないかな?
だいだい、…そうだな、8時くらいになるけどいい?
迎えに行くから」
「えーと、解りました」
「では、後ほど」
あちらこちらからチクチクと視線を感じる…。
お姉様方、今日はやたら多いなー。
私、来た時から何度もマスターと会話してるから、だからなんだ、このチクチクは。
ひょえー、怖いわ〜。