したくてするのは恋じゃない
車は地下駐車場に滑り込む。
どうやら何処かお店のようだ。
そのままエレベーターに乗り、降りた処。
和食屋さんだよ、とマスターが言う。
「ここは知り合いのお店でね、お願いしてあるから、そのまま…、そっちへ進んで?」
滑らかなエスコートだ。腰に手を回されても、あまりにもさりげない為、違和感を感じない。
…流石です。
突き当たり手前の部屋に、ここですよ、さあ、入って、と促され、入った。
完全な個室だ。
ずっと歩いて来たから解る。恐らく誰にも会わずに出入り出来る造りだ。
寛げるタイプのお座敷になっている。
お料理もお任せにしてあると言う。
「聞いて無かったけど、好き嫌いは無いよね?」
「はい、余程の珍味でない限り大丈夫だと思います」
「良かった」
少し微笑んだ時に浮かぶ、目尻の複数のソレも色っぽい。
ほぉ…思わず見惚れてしまった。ポーッとしてるかも…。
失礼します、と給仕の方が現れ、料理を並べていく。
器一つ取っても高価な物。
どのお料理も、一品一品手が込んでいて、盛り付けも凄く綺麗。
食べる為とはいえ、崩してしまうのが勿体ない程だ。
「車は置いて帰るから」
そう言って乾杯した。
「…美味しい」
日本酒はあまり口にした事が無かったが、辛口でスッキリしていて、香りが口に広がる。
こういうの芳醇と言うんだっけ…、とにかく美味しい。
飲み過ぎないように気をつけないと…日本酒は腰にくるらしいから。
元々アルコールも強くないし。
「御飯に付き合ってくれて有難う。
今日はどうしても一緒に食事がしたかったんだ」
「何もお伺いもせず、ついて来てしまって…、
こんなに素敵なお店に連れてきて頂き有難うございます。
凄く嬉しいです」
「良かった。実はね…