したくてするのは恋じゃない
和食屋さんを後にして、今はタクシーの中。
お値段がよく解らない豪華なお食事を、ご馳走様でした、だけで済ませて良いものだろうか。
「何も気にしなくていいから」
「えっ?」
隣り合って座っているシートについていた手を上から握られた。
「んー、百面相してるみたいだからね。…美味しそうに食べて貰ったからいいんだよ。
何も気にしない。何も要らない。
何度も言ってるでしょ?」
「あ、でも…」
「じゃあ、“事件"でも起こす?
この前の先、進んでみる?
更に大大事件にしても僕は良いよ?
寧ろ、大大事件を起こしたい」
?………あっ!
「いえいえ、それは…その…いや…駄目です……それ以外では?」
「ん、要らな〜い。
困らなくていいから。
じゃあ…、そうだね。
これからもずっと、変わらずずっと店に来てよ。
そういう“約束”をくれるかな?僕に。これは…ずっと変わらない約束だよ?」
「それはもう、勿論です。約束します。行きます。そんなんで…」
「それがいいんです。
これからもずっとですよ?
いいですか?約束しましたからね。
約束を違える時は、何かそれ相応のモノを頂きますからね。
覚えておいてくださいね」
「はい、大丈夫です」
好きで通ってるお店だもの。何も苦になる事など無い…。
タクシーを降りてお礼を言う。
「それでは。いつも、お店で待ってますからね」
マスターは帰って行った。
…お酒が入っているのに乱れる事もなく、リップサービスは別として…とても、紳士だ。
普段の方が乱れるのか?…。
…よく解らない紳士だ。