したくてするのは恋じゃない
「じゃ、行くか」
「ちょ…、待って」
慌ててしまって、後について行く。
もう、バタバタ落ち着かない男ね、もっとスマートに出来んのか。
「…お帰りですか?」
マスターに話し掛けられ、返事をしようとしていた。
「今から一緒に、なっ」
剣吾が同意を求めるように聞いて来た。
「はい、一緒に御飯に行く事になりましたので」
「…そうですか。また、ゆっくりいらしてくださいね」
「はい、ご馳走様でした。また」
「お邪魔しました。おい、行くぞ」
いきなり手首を掴まれて引っ張られるように出口に向かった。
ちょっとー、力有りすぎ、痛いんですけど…。
いつもいつも偶然に会うわけねえだろうが。
全く…
どれだけ俺が時間をやり繰りしてると思ってるんだ。でも、来たら殆どいつも居るのは絵里子の方だから。
お陰で会えてると言えば会えてるようなもんだけど。
「剣吾、手首痛い」
「おー、悪い。
癖でつい力が入った」
もう、どんだけ…、どんな癖よ。
「急いで出たから少し時間早いか?まあ、いっか」