したくてするのは恋じゃない


卒業してから会った事無かったし。…確か。

何度か行った同窓会でも見掛けた気がしない。

いつも、仕事で来れないらしい、って誰かが言ってたような。
その時は、何?出来る男気取りなの、って悪態をついてしまったような記憶が…。
直接言った訳じゃないけど、こうして面と向かっていると謝りたくなってきた。
剣吾ごめん。一応、心の中で謝っとこう。


「…心、ここに在らず、か?」

渋々タン塩を食べ始めた私に、焼けたお肉をサンチュで巻き、食べながら剣吾が言う。

「えっ」

「いや、なんでもない」

聞こえないほど何考えてんだ…あのオッサンの事でも考えてんのか?…。

「何?気になるし」

「なんでもねぇよ」

「…もう。…でも、ごめん」

「なんで?」

「…だから、聞き逃して。あのね、考えてたのよね」

やっぱぶっ飛んでオッサンの事考えてたか。

「なんで知ってるんだろうと思って」

「……」

「なんで私が猫舌だってこと、知ってるの?」

「アッチ!あっつー」

弾けた脂が剣吾の手の甲に当たったようだ。

「熱ー…、それはアレだよ。
この前、クリームパスタって言うんだっけ?
温かい内にすぐ手を付けなかっただろ?
出来立てが美味いのに」

…そうだったんだ。
なんて洞察力。大袈裟かな?
でも、気にして無ければ、そこまで思わないかも知れないくらいのこと。

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