したくてするのは恋じゃない
ぼちぼち部屋が近くなる。
悪い癖なのか、何も考えずに口から出ていた。
多分、社交辞令的に。
「剣吾?コーヒーでもどう?
美味しいのは入れられないけど、上がってく?」
「…いいのか?」
「うん、まあ送ってくれたお礼?
あ、焼肉の奢りはまた別にお礼するね」
「ああ、焼肉はいいって言っただろ?俺が誘ったんだから。
じゃあ、遠慮無くお邪魔させてもらうぞ。
…いいのか?」
「どうぞ」
ふぅ、いつものずぼらパターンの時じゃなくて良かった。タイミングよく念入りに掃除した日で。
剣吾といえども、そこは気を遣う。嫌みは言われたく無い。
「へえ、綺麗に片付いてるな、と言うより、…あっさりした部屋だなぁ。
まあ本は多いな、流石に」
と言う事は比較対象があるということね。どこぞの女性の部屋に上がった事があるって事ね。
私もちょっと剣吾の言葉を洞察してみた。
「あっち、座ってて。すぐ入れるから」
手を洗ってやかんを火にかける。
そう、インスタントコーヒー。
マグを二つ並べ粉を入れる。
ここで美味しくするポイント。何かの番組で紹介していた。
少量の水で練るように混ぜておく。
こうするとまろやかに成るらしい。
「ブラックでいいよね?」
「…あぁ……」
ピーッ。すぐ沸いた。
ゆっくりとお湯を注ぐ。
良い香りが立ち上る。
両手に持ち、運ぶ。
剣吾がいるソファーの前。ローテーブルに置く。
クッションを抱えるようにして、ソファーの前でもたれ掛かって座っている。
「剣吾?」