したくてするのは恋じゃない


袖を通さず、カーディガンを羽織っていただけの私は、その上から拘束された。
…つまり、抱きしめられていた。

今日は違った。
ふんわりでは無かった。

抱きしめる強さに思いが篭っているような…。そんな強さ。
ギューッときつく抱きしめられた。

「はぁ…、ずっとこうして…離したくないな。
我が儘な事してごめんね」

名残惜しげに離れると優しく触れるだけの口づけをされた…。
そしてまた抱きしめられた。

「はぁ…、僕は心臓が爆発しそうなんです。
もう冷静ではいられません」

身体からダイレクトに言葉が響いて来るようだった…。

「…僕は、君に、堕ちてしまいました。
もう、止められません」

身体を離して、目を見て続ける。

「誰が見たって絵里子ちゃんと比べたら僕はオジサンだ。君には年相応、若い子がいいって、頭では解ってるつもりだった。
なら、せめて、君が寛げる店の、親切なマスターでいようと。
…でも駄目だった。
好きだと認めてしまうと居ても立っても居られない。
絵里子ちゃんが店に来てくれるのを毎日期待して待ってる。
…冷静な大人の振りをしてね」

「…マスター、…」

「勇士。…僕は鷹山勇士と言います。
…“初めまして"。
内緒ですよ?
誰にも言ってないですからね」

唇に指を当て、私の唇に当てる。
妖艶だけど悪戯っ子のような顔。

「あ…。タカヤマさん…」

こんなドキドキする事するなんて…。

「はい。勇士でいいですよ」

「ユウジさん…」

「はい」

三度目…抱きしめられた。

「あぁ…、困りました、離したくないのですが…。
このまま部屋になだれ込んで押し倒したい気分です。
でも頑張って紳士を演じます。
今夜は、帰ります。
さあ、僕の気が変わらないうちに部屋に入ってください。
おまけは沢山頂きましたから」

「あ…おやすみなさい」

「おやすみなさい…」


情熱的な紳士だった。

あ、カーディガン。

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