したくてするのは恋じゃない


何だか本気で恥ずかしいのだが、あれからも欠かさずお店に来ている。

「こんばんは」

「いらっしゃい、お疲れ様」

自覚すると、私に向けてくれるこの笑顔も、特別なモノのように見えて来るから不思議だ。
…何だか照れる。

「いい反応ですね」

「えっ」

「いえ、独り言ですよ。
さあ、どうぞ。いつもの席へ」


秋桜…。

席に向かう途中、庭の奥の方。咲いているのが見えた。
気がつかなかったな。
いつからだろう。

そうだ…、咲かないうちは緑だけなんだから。
遠めで気が付かなかったのも頷けた。

勝手なイメージなのか、どこかで刷り込まれたのか。
どんなに色濃い物でも、秋桜は何だか儚い気がする。
それとも、今の私の気持ちが儚く思わせるのか…。


「秋桜は母親が好きな花でした…恋に生きた人です」

私の目線を辿ったのか、マスターが言う。


「…マスター」

顔を戻し、呟いた。

「Goodですね」

「Good?」

「はい、店ですから。
ちゃんとマスターと呼んでくれてる配慮が嬉しくてね」

「いえ、そんな。でも、内緒ですって聞いたら、物凄く気にして置かないと。
私の迂闊な発言で迷惑をかけてはいけませんから」

「いいんですよ、言ったら言ったで。
そんなに頑なに守ろうとしなくても」

「…でも、私にだけ教えてくれた訳ですから」

「有難う。…真面目な人ですね…」

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