したくてするのは恋じゃない


ん、何だか、く、苦しい。胸が苦しい。…悪夢?
と思いきや、剣吾だ。
後ろから抱きしめられる格好だ。…抱き枕か!苦しいはずだ。

…寝てるの?起きてるの?なんて考えてた。


「…絵里子」

「うわっ」

起きてたんだ。

「びっくりした…」

抱え込むようにギューッと抱きしめられた。

「苦しいよ、剣吾」

腕を回してタップする。


「…バカかお前は。…言っただろうが前来た時。
無防備過ぎる…」

「剣吾?」

「…こっち向け」

ドクンッと心臓が鳴ったた。

「……」

言う事を聞かなかったら、後ろを向くように反転させられた。

「うわっ」

「…絵里子、今日の事は礼を言う。有り難かった。
だけど、それとこれとは別だ。
お前も悪い。…俺は謝らないぞ」

そう言い終わると上になり、頭の後ろに手を差し入れられた。

見つめられた。切れ長の目、綺麗過ぎてゾクゾクする。

あっ…。顔を傾けて近付いたと思ったら、唇を塞がれた。
…この唇、…感触、身体が覚えている。

迷う事なく剣吾の身体に腕を回す。

剣吾が唇を離す。顔が戸惑っている。

「…絵里子、…いいのか?…」

「うん…、好き…。剣吾…、好きなの。
最近顔見れなくて、だったら何だか余計気になって…わざとかも知れないなんて、うたぐって…、でも仕事だって解って、ホッとして…」

「絵里子…心配したのか?…」

剣吾の手が頬に触れる。

「…うん。生きてるのか倒れてるのか、全然解んないから不安だった。
だって剣吾の会社、人使い荒そうなんだもん」

「まあ、違いないけど。
ブラックじゃないって」

「…ならいいけど」

抱き起こされて向き合った。
剣吾の顔を両手で包んだ。

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