したくてするのは恋じゃない
「嬉しいなー。そんなに会いたかったんだぁ」
「ちが…そんなに、食べたかったんです。
時間も時間だから連絡して来ようと思ったんですが、連日通っているのに、考えたら番号も何も解らなくて。仕方ないから当たって砕けろ的に来ました」
もう玉子に包まれてる。あ、ケチャップがのった。
「お待たせ…。はい、どうぞ…」
前からオムライスと珈琲が出された。
今はカウンターに座っている。
マスターはエプロンの紐を解き、自分の分の珈琲を手に出てくると、隣に腰掛けた。
「いただきます」
「はい」
ケチャップを伸ばす。端にスプーンを入れ、口に入れた。慌てたから熱い。ハフハフする。
「熱っ…う〜〜ん、間違いなく、…美味しいです」
「そう?それは良かった」
マスターは片肘を付き、頬をのせ、傾げた格好で私を見てる。
…色っぽいな。
薄暗い店内で、この場所だけスポットライトに照らされてるようで、雰囲気があり過ぎる…。
見詰められると何だか食べ辛い。
焦って、思ってもないことを口にした。
「マスターも。艶っぽくて美味しそうですよ」
「……」
まずい。…余計な事を。
マスターなら、かわす言葉が返って来ると思ったのに…。
…仕方ない、食べる事に集中するか。
「ハァ…、絵里子ちゃん…。
絵里子ちゃんは、もしかして無自覚なのかなぁ…」
ついていた肘を一旦下ろし、改めて両肘をつき、両手の指を組んで顎をのせた。
「一度オジサンに火を付けると、大変な事になるんだけど?」
食べていたスプーンをくわえた格好で顔を向けた。
「…もう、またそんな…子供みたいな可愛いことをして」
「…」
何も言い返さないのも得策かも知れない。
無視するつもりは無いけど、言葉が見つからない。聞かなかったことにした。
顔を戻してまた食べる事にした。